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(第13回)医師からみたギャンブル依存症の実態

日本共産党横浜市議団がお届けするインターネットTV「JCPヨコハマチャンネル」。今回は、2014年11月22日に、日本共産党横浜市議団主催で開かれた、「横浜にカジノはいらない!カジノ解禁と横浜誘致について考えるシンポジウム」の野末浩之さんの報告をお伝えします。


精神科医 野末浩之

こんにちは。ただいまご紹介いただきました野末です。今日は、ここに書かれたようなテーマでお話をさせていただきます。20分程時間をいただいております。

日本のギャンブル依存症は536万人

(スライド2)このデータはみなさんご存知のものですね。今年の8月に発表された厚生労働省の研究班が出したデータですね。日本のギャンブル依存症患者さん536万人。復唱になりますけれども、この調査によると、ギャンブル依存症の疑いがある人というのは成人男性の8.8%、女性の1.8%、全体では4.8%だよということです。6年前の調査、男性9.6%、女性1.6%という数値からは、改善がみられていない。諸外国では1%前後に対して、日本の数値は異常ともいえる高さであるということが、報道されたわけですね。その中でも解説されたのは、日本ではギャンブル依存症に対する社会的な認識が乏しく、行政の取り組みが立ち遅れているということがコメントされて、今回のカジノ誘致問題とからめて、議論になっているところです。

 さて、私、精神科医師の立場からお話をさせていただくんですが、一番下のところに出ました社会的な認識が乏しくというのは、残念ながら精神科医師の中でも、間でも、実は同じような状況なんですね。今回、私が呼んでいただいたひとつの背景としては、やはりカジノ問題に対して積極的に考えたり発言されているという人たちのほとんどがギャンブルはあまりおやりにならないんですよね。毎日パチンコに通ってますといった人は、あまりこの会場におられないと思うんですけれども。ですので、ギャンブル依存症というのはそもそもどういうものよということを、私の方に話してくれということが最初のきっかけだったと思うんです。

 ところが残念なことに、私が実際みている、だいたい実数で1000人以上の患者さんを毎月診てますけれども、本当に一桁ですね、ギャンブル依存症の患者さんというのは。ですから、1%いないんですね、私の患者さんの主たる病名の中でも。じゃあ、どういうところにいるのかっていうのは後でお話するんですけれども。

病的賭博者100人の臨床的実態報告

(スライド3)私、今日は紹介したいなと思っていた論文が、2008年に書かれた精神科医が読む専門雑誌に書かれた論文なんですね。これは、ここに書いてあるとおり、「病的賭博者100人の臨床的実態」というものです。

 この森山斉彬先生という医師がギャンブル依存症の臨床・研究において、私は日本の第一人者なんだろうなと思っています。この方は、文学のお好きな方であれば作家としてのお名前の方でご存知の方も多いと思うんですが、帚木蓬生さんという作家でもあるんですね。

 今日、この論文を紹介するのは、実はちょっと多くの方があまり目にしていらっしゃらないでしょうから、楽しみにしてたんですけど、やっぱりみている方はみてますよね。今日、共産党さんのシンポジウムということなのであれなんですけども、今月の13日の日刊の赤旗新聞の3面に、帚木先生が大々的にお見えになって、1面使ってインタビューで、この論文の内容を全部しゃべっちゃっているんです。熱心にそういったものを読まれている方はあああの話かっていうことになるとは思うんですけれども、ちょっと私より先にしんぶん赤旗さんの方が着目されて、ちゃんと帚木先生にお話を聞きに行かれてるんです。

 これは、本名の森山医師が九州で開業されているんですけれども、メンタルクリニックを開設後の2年間に、新患として来院した病的賭博者、ギャンブル依存症の方100名、92%、100名ですから92名、つまり92%が男性なんだけれども、それについて調査したものです。この数字がすごいんですね。一般の臨床医として精神科の医師でやっていて、2年間で100名のギャンブル依存症の方を診るっていうのは、それだけそういった知名度があるというか、ギャンブルのことで困ったらこの先生ということをいろいろな意味で広く知られている先生なんですね。そしてまた、本当に困っている人たちが医師にかかりたいと思っているルートがしっかりあるということで、これは非常にうらやましいというか、横浜市でもギャンブルの依存に悩んでいる方は実は多いので、私たちも勉強になるなと思って読んでおりました。

ギャンブル開始は20歳、急速に進む依存症

(スライド4)さて、特徴的なことがいくつか書いてあります。ギャンブル開始年齢、非常に若いですね。100名のアンケートでいうと、早い人は13歳、遅くても45歳に始めている。平均すると20.2歳です。つまり、成人すると同時に、あとで出てきますけど、だいたいは大学生の時期に始めるんですね。

 借金を始める年齢はそれよりも約7、8年後ですね。趣味の範囲というのかな、お小遣いの範囲でやっていたものが、借金をするようになる。これはもうりっぱな依存症ではないかと私は思うんですけれども。ギャンブルを初めて開始してから約7、8年で依存症に陥っているわけですね。

 たとえば、アルコール依存症などとくらべても非常に速いですね。男性の場合、アルコール依存症は飲み始めてからあびるように飲むようになって依存症になるんですけども、だいたい20年から25年かかるといわれているんですが、ギャンブル依存症はその3分の1とか4分の1という短い期間でなっているようですね。

 依存症者さんの背景のひとつ、特徴的なことは、実はほかの依存症にくらべて高学歴の人が多いんですね。これはなぜか、ちょっとわからないんじゃないかね。大学卒以上が42%。麻雀とか大学でおぼえるからっていうんですかね。でも、今の大学生は麻雀やるのかね。パチンコでしょうね。そういう傾向があります。

 婚姻状況としては、未婚23%、結婚が65%、離婚している人が12%

 こういったデータから依存症の人たちが創病していくと、青年期の早期、中高生から大学生の時期からギャンブルに手を染め、10年足らずで依存症になっていきます。ギャンブルにより婚期を逃す、そして既婚者は家庭が崩壊の果てに離婚に至るという二極化が。そもそも結婚しないか、家庭を壊していくかという二極化だということを、森山先生はおっしゃっています。

世界のゲーム機の6割が日本に

(スライド5)どういったギャンブルをやるのという、ここが大事ですよね。ほとんどがパチンコ、スロットなんですよね。日本国は、あれは遊戯だと、なんかわけのわからない定義をしているわけですけれども。ちゃんとした国際的な診断基準でギャンブル依存症の診断がついている方たち、専門医が診てギャンブル依存症だよといっている人たちの元々行っていたものは、パチンコ、スロットです。パチンコ、スロットがらみで全体の82%ですね。

 じゃ、これはどういうことなんだ。先ほどもお話した国際的にみても非常に高いギャンブル依存症者の割合っていうのは、なぜこうなっているのか。

 ここに書いてあるように、2011年時点で全世界のゲーミングマシン、これは海外のカジノに行ってもスロットというのはありますね。3つ数字をそろえるみたいな、ガチャンってやる。ああいったものが総数は世界中に、ここに書いてあるように701万1000台。うち日本は421万1000台。世界のなんと60%だよということですね。これは岩波のブックレットで出てますけどね、古川さんという方が書かれた「ギャンブル大国ニッポン」というのに書かれている数字です。同じようなことを森山先生もおっしゃっているんですけど、世界の6割のギャンブルマシンが日本にもう既にあるんだよ。そのために高いギャンブル依存症者の数が形成されているんだよということがわかってきます。

ギャンブルに1日で1~10万円

(スライド6)借金、費用の状況ですね。これは、本当に患者さんという当事者の方から聞いたので、生々しいデータですけれども。まず1日で使った最高金額っていうのは、6割の人、一番多い数が1万から10万。もっともっと使っている人もいれば、少ない人もいるんだけれども。だいたい毎日10万弱を負けたり勝ったり、負けたり負けたりしているわけですよね。

 100万円以上1日で使った人はどういうのをやっているというと、ここでカジノが出てくるんですね。この時点では当然、現在もそうですけれども、日本にカジノはありませんから、いわゆる裏というか、闇のカジノですね。それから、よくわかんないけど、昔「ばたやん」という人もやったんでしたっけね、場から賭博とかね。賭けマージャン。こういったので大きな金額が動くということだそうですね。

 この患者さんたちがこれまでギャンブルで浪費した金額、平均すると1293万円。少ない方で50万、多い方になると1億1000万、ギャンブルで使い果たしているということですね。

 治療を受ける段階での、治療にようやく来たと、医者のところに来た段階での負債総額が、平均すると600万弱ですね。少ない人は0円。もう負債できません。つまり自己破産している。それから、多い人で医者に来た時点で6000万円まだ残ってますよという人までさまざまだということですね。これだけの被害が周りに起きてくるわけです。債務整理した患者さんがだいたい全体の28%ですね。これは法律家のいろいろな先生方のお力を借りているということになると思います。

配偶者を精神的に追い込み

(スライド7)森山医師の報告でなかなか特徴的なところは、配偶者の精神状態をみているんですね。病的賭博者というのは、特徴は借金と嘘が2大的特徴だよいうことを、先生は言っています。この借金と嘘ですね。一番大事なパートナーにどんどん並べ立てられるものだから、配偶者が追い詰められていきます。この先生の調査では、結婚してらっしゃる65名中10名、すべて男性患者さんで、女性の妻の配偶者の人たちがおられたわけだけれども、その妻15%が精神科医に通院してましたということです。内訳は、うつ病が6名、あとパニック障害、不安障害、自立神経失調症、不眠症など、さまざまな精神科の病名がついていますけれど。明らかに精神科にかかっている人だけでこれだけいるわけですね。医者には行く余裕がないけれども、とてもとてもつらいなんていう人、もっといるわけですね。

 ですから、家族、特にパートナー、配偶者に対するケアと教育が、ギャンブル依存の治療には不可欠なんだ、本人だけ治療していてもだめなんだよということをおっしゃっています。

ギャンブル依存症に手をこまねいている日本の実態

(スライド8)これ、まとめなんですけれども。
 まとめに行く前に、帚木さん、森山先生が、赤旗新聞さんのインタビューに答えて、この論文に書いていないことにちょっと言及されているので、ちょっとコメントしますと、先ほどギャンブル依存症者の数が非常に多いよという話が出たんだけれども、この先生がおっしゃるには、2008年、前回の結果、推定有病率が非常に高かったので、当時の研究班が非常に結果に驚いて、数字が独り歩きしないように内密にしましょうと、班長さんが指示したんだというふうにおっしゃっています。なので、その時点で懸命に対処していれば、この4年間ムダにならなかったんだということを、ギャンブル依存症の臨床をずっとやっていらっしゃる先生は新聞社のインタビューに対しておっしゃっています。

 もうひとつ、日本がここまでギャンブルに汚染された国になった背景には何があるかというと、これはちょっと原発の構造に似ているなと思うんですけれども、5つの不作為があるっていうんですね。それは何かというと、行政、警察、マスメディア、そして私も属している精神科医学会、そして法律家というふうにいっているんですね。もちろん今日のお集まりの法律家の先生ではなくて、そういったものを推進する立場ということなんでしょうけれども。精神科医も含めて、あるいは行政、警察、マスコミ含めて、やはりパチンコ業界さんがいろいろ広告費とかいっぱいうつ影響があるのかもしれないけれども、なかなか及び腰になっていて、ギャンブル依存症という問題についてはあまり触れていなかったのではないかということを、森山先生は強く警告されています。

 そういうことで私も、先ほども言いましたように、実際の臨床でギャンブル依存症の患者さん多く診てないので、深く恥じ入るところなんだけれども、今後は何とかしてこういう方たちの治療をもっと自分でも積極的に引き受けていきたいなとは思っています。一方で、なぜそういった患者さんたちが精神科の臨床につながりにくいかということも一緒に考えていかなければいけないと思っています。

 それは、先生の論文のまとめにも書いてあるんですけれども、わが国においては既にパチンコ産業などの影響で諸外国にくらべて多数のギャンブル依存症者が存在している。これはもう間違いのない事実です。

 患者さんが増えちゃったっていう原因のひとつもそうなんだけれども、発病するギャンブルに手を染めて借金を回収するのは全部20代ですよね。ですから、青少年期に、そういったものに触れていくわけだけれども、青少年に対するギャンブル嗜癖の警鐘は重要なんだけれども、残念なことにわが国ではほとんど施策がないということですね。この「ギャンブル大国ニッポン」という本の中には、たとえば地方都市、大阪などの都市においては、公営の交通機関の車体にパチンコ屋さんがラッピング電車をお金を払って走らせているなんていう現状が載っておりますけれども。子どもさんたちがちいさい頃からパチンコなどになじみをもつ、そういう社会状況が続いています。

もうひとつが、これも私自身、耳が痛いことなんですけれども、臨床医の鋲的賭博に関する熱意が薄く、全ての精神科医が治療を引き受ける必要がある。まったくそのとおりですね。先ほどちょっと触れたんですけれども、ご本人はなかなか診療に来ないというか、われわれが来ていただく努力をしていないともいえるんだけれども。なかなかご本人は、すべての依存症そうなんですけれども、否認といって、認めないというメカニズムがあるので、なかなかご本人は来ない場合が多いです。でも、たとえばアルコール症の方の場合などでは肝臓が悪くなりますので、結果として医者に来るんですね、内科とかにね。そこから精神科につながる場合があるんだけど。ギャンブル依存症の場合は肝臓は病みませんので、なかなか医者に来ないんですね。でも、配偶者の方が来ているわけです。ですから、私がいままで、いままであまり、問診などでたとえば女性の方がうつ病だと来られた時に、もっともっと精神科の医師が、あるいは一般のプライマリーケアとか家庭医、かかりつけの先生たちが、旦那さんギャンブルどうなんだろうかということをきちんときいて、ちょっと実はそれで悩んで私も眠れないんですなんていう方たちの場合には、そこから患者さん、つまり配偶者の当事者の人の治療につなげていくなんていうことも必要になってくるんじゃないかなと、そんなことを思いながら、この論文を読んでおりました。

 ちょっと駆け足になってしまって恐縮なんですけれども、今日はこういった論文を紹介させていただいて、みなさんのこれからの学習と討議のお役に立てれば幸いです。ご清聴、ありがとうございました。