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公正で民主的な教科書採択を実施することを求める申し入れ

2015年5月19日

横浜市教育委員会 御中

横浜市中区港町1-1市庁舎内
日本共産党横浜市会議員団
団 長  大 貫  憲 夫

4年毎実施の中学校教科書採択が、今年の夏に行われます。教育委員会で教科書採択の基本方針が策定され、教科書の取扱いについて、調査・審議が教科書取扱審議会(以下審議会という)へ諮問されました。

4年前、採択された育鵬社版中学校歴史・公民の教科書は、戦争を肯定する歴史観や人権尊重よりも国への忠誠を強調するなどの内容に対して、多くの専門家からも問題が指摘されており、また日本国憲法の改訂へと誘導する内容であり、全国的にも4%しか使用されていません。全国580地区中、両方とも採択しているのは14地区だけです。また、これ以前に市教育委員会が採択した自由社版中学校歴史教科書は、戦争を肯定する内容の上に、客観的事実に多くの間違いが指摘されても最後まで訂正に応じることなく、また市教育委員会もこの訂正を求めず、生徒は間違った教科書で学ばされ、卒業しています。

2006年、第一次安倍内閣によって教育基本法が改定され、教育の目標に「我が国を愛する態度を養う」ことなどを盛り込み、2013年には社会の検定基準・審査要項が改定され、2014年には尖閣諸島と竹島についての学習指導要領解説書の改定があり、領土問題の記述が増えました。自民党政権の立場を子どもたちに教え込む方向の強まりが懸念されます。2015年の検定で、自由社、育鵬社の教科書が合格し、日本軍「慰安婦」を記述しようとした教科書の記述の大幅削除が起きていることは、「村山談話」「河野談話」で政府が表明してきた過去の誤りへの反省の立場が反映されておらず、看過できません。国際港都横浜の子どもたち・青年が、世界とりわけアジアの人々と仲良くできる人として成長するためにも、歴史の真実を直視し、世界に通じる歴史を学び、世界の人々と歴史を共有することが重要です。

こういった事態の中で行われる今回の教科書採択は、教育委員会の責任が重いものです。

昨年の教育委員会での教科書採択が無記名投票で行われたこと、また一部の教科で審議会の答申と異なる教科書を採択したことは、教科書採択という重要な事柄がブラックボックスに等しい中で決定されたということで、市民への説明責任を果たすことなく実施されており、教育行政への信頼にもかかわる重大事態です。

教科書の採択は、主権者・国民の教育権にかかわることであり、その方法は、市民への説明責任をはたし、納得が得られるものでなくてはなりません。

子どもに最も適正な教科書を選定するのは、児童生徒の実態を踏まえた教師や学校がかかわることが不可欠です。現に、高校や特別支援学校及び小・中学校個別支援学級用教科書採択に当たっては、各学校の学習実態に基づいた教科書、各学校の当該児童生徒の学習実態に基づいた教科書の報告を各学校長に求めています。

教科書採択に判断と責任が求められているのは、今現在、横浜市教育委員会の6名の委員です。教科書は、中学校で9教科104冊あります。膨大な量であり、教育委員全員が教科の専門家でもなく、日常的に児童生徒と接しておられるわけでもありません。従って、教育委員会が、専門家である教師の意見がしっかりと反映された審議会の答申を尊重するのは当然です。

アメリカ・イギリスなどの国々では、学校が教科書の採択を行っています。教育行政機関だけに採択権限があるのは日本と中国くらいのものです。しかし、市教委が定めた基本方針は「審議会答申を受けてその権限と責任において慎重に審議」とあるだけで、尊重という文言はありません。

また、市教育委員会は、審議会への諮問に際し、中学校教科書調査に関して全教科共通の調査項目を示しています。4年前の答申をみると、例えば「我が国と郷土横浜の伝統や文化を愛し、守り伝えていくとともに、諸外国の人々の生活や文化を理解、尊重し、国際社会に寄与する開かれた心の育成に適したものであること」という全教科共通の「観点5」では、理科で「神奈川県に関する資料が使われている」との評価報告が行われており、科学的なものの見方や科学的に問題解決することを学ぶ理科としては奇妙な評価となります。従って、教科別の観点を重視した調査報告が必要です。

今回、文部科学省が出した局長通知で、「教科書の調査研究については、必要な専門性を有し、公正・公平に教科書の調査研究を行うことができる調査員等を選任し、各教科ごとに適切な数配置するなど体制に充実を図るとともに、調査員等が作成する資料については、教育委員会その他の採択権者の判断に資するよう一層充実したものとなるよう努めること」と、教科書採択方法の改善を求めています。

本市の教科書調査員は管理職教員や指導主事に偏る傾向があると聞いています。調査員を増やし、現場教員を中心に任命することが必要です。

国会での政府答弁で「調査研究の結果として何らかの評定を付し、それも参考に教科書の採択を行うことが不適切だというものではないというふうに考えております」とされているように、教師たちが、子どもたちにふさわしいと教科書に順位づけをする行為を禁止するものではないことは明らかです。昨年の小学校教科書の答申のように、観点ごとに適切な教科書を選ぶ仕方は変更する必要はありません。教科ごとの教科書の客観的な評価が児童生徒の実態をふまえた調査員によって明らかにされ、そして採択そのものが市民に分かりやすく実施されるよう実施する責任が市教育委員会にはあります。

よって、以下の内容を求めます。

1 教科書採択基本方針、審議会への調査・審議の諮問について
(1) 教科書採択の基本方針に「教育基本法」、「学校教育法」、「横浜版学習指導要領」等の上位に「日本国憲法」を加えること。
(2) 審議会の教科書調査員が行う教科書調査により客観性を持たせるよう、現場教員の教科書調査員を増員すること。
(3) 審議会の答申には、観点ごとに「適切な」教科書を選ぶよう表記すること。その際の観点は、教科別の観点を重視すること。

2 教科書採択の基本方針に「審議会の答申を尊重すること」を明記すること。

3 市民に開かれた採択とするため
(1)採択会議の議事進行にあたっては、各委員に適切と判断する教科書について意見表明を求めること。意見が分かれ、投票となる場合には、記名投票とすること。
(2)採択会議は、傍聴希望者が全員傍聴できる広い会場で審議すること。

以上