見解/声明
2009年1月15日

議会制民主主義を破壊する議員定数削減には反対です

2009年1月15日
日本共産党横浜市議会議員団
団長 大貫 憲夫

はじめに

 現在、横浜市会運営委員会の理事会で、議長の諮問を受けて議員定数問題が論議されています。昨年12月22日の同理事会では、各会派からそれぞれの考え方が示されました。自民党「税収も厳しくなる折、行政にとどまらず議員定数削減で経費節減を」、民主党「費用弁償廃止や政務調査費での改革をやってきた。定数減に真摯に取り組むべき」、公明党「法定上限から国勢調査を基準に下げる議論を」など、もっぱら「行政改革」や「経費削減」の観点から定数削減の方向で論じられており、議会の役割の重要性をわきまえた議論とは言い難いものばかりです。しかも、議論の場となっている運営委員会理事会は、非公開です。民主主義の課題にもかかわらず、市民はまったくかやの外です。
 また、これらの政党・会派は、昨年の12月市会に市長が提案したみどり税導入に賛成、その際に、議会側が市民負担増を求めたことを気にしてか、議会も身を削るべきとして、定数削減を本会議場で公言していました。議長は、年頭に「年内の早い時期に結論をだしたい」との意向を示しています。
 現在の横浜市議会の条例定数は92名です。地方自治法第91条で「市町村の議員の定数は、条例で定める」「(定数は)当該各号に定める数を超えない範囲内で定めなければならない」とされ、横浜市の場合は「人口90万以上の市 人口50万を超える数が40万を増すごとに8人を56人に加えた数」に該当し、本来の法定定数は112人ですが(その数が96人を超える場合にあっては、96人)という上限規定のため、96人です。現行の条例定数92は、法定定数より4少ないのです。

前回改選時は「3増3減の92名の現行定数」で全会一致
 市会議員選挙を半年後に控えた2006年9月から、定数削減が議会で議題となりました。2006年9月議会では11人減の自民党案が、2006年12月議会では3人減の民ヨコ案と3増3減の公明党案がともに否決という経過をうけて、翌年の1月に最終的に議長裁定による3増3減の92人案が全会一致で可決されています。現行定数維持が議会の総意であったわけです。

1)議会の役割とは何か

 地方自治体は、執行機関である首長と議事機関である議会という、ともに住民の直接選挙で選ばれた機関で構成されています。議事機関とは、議員が、住民の代表として、法が定める議会の権限を行使して、地方自治体の意思決定を合議で行うということです。
 議会は、①地方自治体という団体意思の決定を行う議事機関としての機能と、②執行機関の監視を行う監視機関としての機能を担っています。また、個々の議員を通じて執行部に対し住民の意思を伝え、同時に執行機関を批判、監視していくことも大きな役割です。
 地方自治体の自己決定権の拡大という地方分権時代の今日、議会の政策形成機能も含め、こうした機能の充実・強化をはかる議会改革が求められています。また、議会の果たすべき役割と現状とのギャップをうめる議会の自己改革もあわせてすすめることも重要となっています。
 議会の定数削減問題は、あるべき議会の姿を論じ、将来像を定める作業のなかで、議論すべきです。

2)大義と根拠なき議員定数の削減

○効果微少の経費節減
 
議会費は、本市の場合、30億円、一般会計歳出総額(1兆3千6百億円)の0.2%(08年度予算)、議員に関する費用は総額23億円で、1議員当たり約2500万円です。この議員に関する費用が高いのか低いのかはさまざまな議論があるところですが、民主主義を保障する経費としての性格を見据えて、判断すべきです。経費節減効果は、10人削減とすると2.5億円で、予算規模から見るとわずかです。定数削減を主張する政党、会派は、経費削減を理由にしながらも、議員報酬(現在月額97万円)のカットには言及していません。また、常任委員会、特別委員会の市外視察、議員の海外視察の見直しにも目をつぶったままです。

○定数削減は、議会改革と無縁
 いま、なすべき改革は、議会の中身の見直しです。条例提出権の行使など議会の活力を高め、住民参加・情報公開を加速し議会への信頼向上をはかることです。本会議場の一問一答の質疑方式など議会運営上の改善も急務です。定数削減すれば、議会が改革されるものではないのです。

○行政もリストラ(行革)しているから、議会もリストラ(定数削減)だは、暴論
 業務の効率化によって増減する職員の数と、議論を戦わせることを役割とし、公選により選任され、住民意思を行政に反映する代議機関を構成する議員の定数を同列に語ることはそもそも無理があります。

○少数精鋭論は議会にはなじまない
 
議員定数と議員の質について混同した意見もありますが、全く別の性格のものです。定数を削減すれば、議員の質が高まるものではありません。
 議員は、住民を代表して審議決定するのですから、全住民を代表するにふさわしい数が必要となります。むしろ、定数削減は、地域代表的性格や多様な住民の意見、さらに少数意見の排除につながるものとして、逆に議会の本来持つべき機能を低下させることになるのです。

○ 議員一人当たりの人口は全国最大が横浜です
 
地方自治法で人口規模に応じて定められた議員定数の上限は横浜市の場合96人ですが、現在すでに4人下回っています。また、議員1人あたりの人口は、全国17の政令都市で横浜市は最も多い39,371人で、最も少ない静岡市(13,598)の3倍近い人数となっています。これは市民の側からみれば横浜市の場合、静岡市に比べ議員、さらには市政が3倍遠い存在であり、一票の価値は逆に3分の1にすぎないことを意味します。政令都市全体の平均は、議員1人当たり21,156人ですから、横浜市は全国の政令都市と比べても、議員、市政との距離は約2倍、一票の価値は約半分です。
 県内の議会と比較すると、人口約22万人の茅ヶ崎、大和、厚木の各市では、それぞれ30、29、28人の議員が活動する一方、同じ人口規模の神奈川区、港南区では各6人しか議員がいません。横浜市の現状はそれだけ市民とのパイプが細いことを示しています。 人口比で全国最少の横浜市の議員定数をこれ以上削減することは、議会制民主主義の発展の大きな障害となるものであり、議会の自己否定に等しいものといわなければなりません。

3)地方分権の時代に問われる地方議会のあり方

 地方分権に関して、国による「三位一体の改革」では、税源移譲とひきかえに国庫補助負担金の廃止・縮減、地方交付税の削減をすすめ、地方自治体が担う教育や福祉の仕事の財源を保障する制度を改悪し、住民のくらしと権利を切り縮めるものとなっています。一方、自治体の仕事のほとんどが、法定受託事務とするものを除き、原則として自治事務(自治体自らの権限で行う事務)とされ、これらに対して地方議会の権限が及ぶこととなり、その権限が強化されています。
 これらのことから、住民の暮らしと権利を守るためにも、さらに執行機関へのチェック機能を強化するためにも、議会の役割は益々重要となっています。
 2006年2月に発表された全国市議会議長会都市行政問題研究会の「調査研究報告書」では、分権時代における市議会の役割について「議会の執行機関に対する監視の役割が一層重くなる、・・・政策立案も住民の意思、地域の実情を的確に踏まえたものとしていくことが必要」とし、議会の構成も「都市全体を見渡すことのできる議員で多く構成されるようになることが求められる」こと、「執行部に負けないほどの政策論争を重ねることが必要、・・・この機能(監視機能・政策立案)の向上を果たす上においても相当の議員数は必要である」と述べています。
 同年3月の都道府県議会制度研究会の報告でも、「議会は地域における政治の機関であり、行政体制の一部ではない。議員定数の問題は、単に行政の簡素合理化と同じ観点から論ずる問題ではない」として、「議員定数は、議会の審議能力、住民意思の適正な反映を確保することを基本とすべきであり、議会の役割がますます重要になっている現状においては、単純な一律削減論は適当でない。競って定数削減を行うことは、地域における少数意見を排除することになりかねない」と、定数削減に異をはさんでいます。
 このように分権時代において議会に求められているのは、議員定数の機械的な削減ではなく、住民の多様なニーズや意思を正確に反映できるだけの議員の数であり、議会・議員の本来の役割が発揮できるよう質的向上をはかることです。

4)住民のために働く議会にするために

 市民の中に「議員が多すぎる」という声があるとすれば、市議会・議員の質が問われているのであり、いま必要なのは単純な定数削減ではなく、議会・議員に対する不信感を取り除くための議会改革をさらに前に進めることです。
 党議員団はいままで議会改革のための提案を積極的に行い、議会の同意で一つひとつ実現してきました。政務調査費の領収書添付の義務付けと公開、インターネットによる本会議、予算・決算特別委員会の中継、議員費用弁償の廃止等、一部改善がはかられました。さらに、本会議の質問時間の拡大など、議会の審議内容の充実や議員の政策形成能力向上に資する方策の具体化が必要です。委員会への傍聴など一層の情報公開、委員会の市外視察、議員の海外視察の総点検による浪費の削減等は、請願・陳情の期限見直しや陳情も審議すること、請願・陳情者の趣旨説明の容認など住民参加の拡充とあわせ、市民の強い要望でもあり、実現しなくてはならない課題です。

終わりに

 格差と貧困の問題が深刻な様相を見せ、市民の暮らしむきはますます厳しくなっています。市民のなかには多様な意見が混在し、行政への要求も山積しています。こうしたなか、経費削減を主たる理由にして、議員定数を削減することは、市民にもっとも身近な議会とのパイプを細くし、いまでも遠いといわれる市役所、市政をなお一層遠い存在にしてしまいます。
 いま、国においても、地方制度調査会で、議員定数の法定上限(96人)の撤廃が検討されています。私たちは、横浜市会の本来の議員定数は、地方自治法上の計算数値112名であるべきと考えます。法定定数96に戻すべきです。その財源は、現行議員歳費の削減や、海外視察の見直し等でまかない、これ以上の議会経費の増大は避けます。
 議会はどうあるべきかという全体像の論議抜きの「議会改革」と無縁な議員定数削減は、民意を削り、国民の参政権を削り、議会制民主主義の拡充に相反するものであり、認めることはできません。


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