- 日本共産党 横浜市会議員団 - http://www.jcp-yokohama.com -

2013年度予算編成にあたっての申し入れ

2012年8月28日

横浜市長 林 文子 様

日本共産党横浜市会議員団
団 長  大 貫 憲 夫

発想の転換を
 昨年発生した東日本大震災・福島第一原発事故という未曽有の大災害は、横浜市の戦後から現在までの爆発的な拡大・膨張の過程で、災害危険の発生構造をも同時に蓄積してきたことを表面化させました。また、リーマンショック以降の世界的金融危機に加え、ヨーロッパを発端とする信用・金融不安が世界経済をますます減速・低迷させています。そして、わが国の長引く不況は本市の経済及び財政を圧迫しており、先日成立した消費税税率アップが実行されるならば、いっそう落ち込むことは必至です。さらに、人口構成の変化により少子高齢社会への対応は待ったなしという状況になっています。
 このような情勢のもとで「市民の命とくらしを守る」という地方自治の精神を市政に反映するためには、これまでの延長線上ではなく、都市のあり方や都市の骨格そのものを変えなければなりません。発想の転換が必要です。その立場から、わが党として貴職による2013年度予算編成方針策定にあたって、申し入れを行うものです。

防災の目標は「減災」から「人命被害ゼロ」へ
 発想の転換の第一は、地震などの災害対策についてです。
 先ごろ2012(平成24)年度横浜市市民意識調査結果速報が発表されました。それによると、市政への要望の第1位は「地震などの災害対策」で44.9%となっており、「命とくらしを守る」ことが自治体に求められていることがわかります。
  「地震などの災害対策」は緊急かつ最優先の課題です。南関東で発生するマグニチュード7程度の地震の発生確率は今後30年以内で70%と言われています。震災対策については「横浜市耐震改修促進計画」の前倒しが図られてはいるものの、これまでの施策の域を出ていません。国の基本方針「減災」に基づき、今年度中に本市防災計画「震災対策編」を全面的に修正するとしていますが、一定の死亡者は折り込み済みという「減災」ではなく、一人も「人命被害」を出さないということを根本に据えなければなりません。その決意がなければ全てが中途半端な施策となる危険性があります。「人命被害ゼロ」を宣言し、本市の最優先課題とすべきです。

外発的産業政策から内発的産業政策の転換で横浜経済の振興を
 発想の転換の第二は、横浜経済を潤すための経済・産業政策への転換です。
 市長は「経済が潤えば、子育て、福祉、医療も一層充実させることができます」と強調し、大企業やグローバル企業の立地促進、観光・MICE都市推進など国内外の企業や人を呼び込み、これを本市経済・産業の基盤とする外発的産業政策至上主義的な立場を取っています。
 しかし、このやり方では市内経済全体への波及効果や成長発展は期待できず、一部の政策的恩恵を受けた大企業などが喜ぶだけという事態になります。それを裏付けるデータがあります。昨年行った企業立地促進条例によって本市の支援を受けた企業に対するヒヤリングでは、半数以上が市内企業に発注を増やせる分野がないとし、また、認定時に市から要請があるにもかかわらず市民雇用を増やしていない企業が78%に及んでいます。このように市内企業の99%を占める中小企業を支援・育成する視点が後景に押しやられています。
 ここでも発想の転換が必要です。そもそも、大企業偏重の経済政策では景気はよくなりません。大企業が潤えば、いずれ雇用と家計にしたたり落ちて経済がうまくいくというトリクルダウン経済論は完全に破たんしています。本市経済の発展の基礎は、何よりも市内中小企業が活発に営業できる条件を整えることです。横浜市内経済が活性化し市場が広がることにより、インセンティブとして多額な税などの支援をしなくても市外から本市の市場を求め企業が本市に進出します。
 具体的には、災害対策、子育て、福祉、医療など市民生活の安全、安心の取り組みを戦略課題に位置付け推し進めることです。住宅リフォーム助成など新たな制度による耐震工事や木造住宅密集地区の解消、狭あい道路の拡張など生活道路整備、保育所整備や介護施設などは市内建設産業の仕事興しになり、福祉・医療や介護サービスの充実は雇用を増し、経済波及効果を引き上げます。さらには、地球温暖化対策や「原発ゼロ」の立場から再生エネルギー産業育成など推進するためにも、本市のこれまでの大企業やグローバル企業誘致などによる産業振興政策を市内中小企業振興に切り替えることが、雇用や市民一人ひとりの可処分所得を増やし、ひいては本市財政に寄与することになります。外発的産業政策を根本から見直し、中小企業振興基本条例に基づき、中小企業育成・施策への財政的支援の切り替えを要求します。
 
「都市間競争」は「人」をテーマで
 発想の転換の第三は、市長がいう「都市間競争」の問題です。世界の大きな構造変化の下で、市民が求めているのは、横浜都心部再開発などのグローバル都市、コンクリートのまちづくりや、派手なパフォーマンスで人を呼び込むというような国際観光戦略などによって他都市を競争で蹴落とすという「都市間競争」ではなく、「人」に着目した安心で住みやすいまちづくりです。 そして、「住みやすさ」を国内外の都市で互いに競い合うことで、全国的地球的レベルでより住みやすい社会に近づき、「市民の命とくらしを守る」社会の実現に寄与するものと考えます。
 この春、神奈川新聞に厚木市の「県内トップクラスのサービスで、あなたの子育てを応援します」として、「中学生までの医療費が無料」「マイホーム取得助成」「37児童館&14公民館などで子育て応援」などなど様々な子育て応援施策を掲げた大きな広告が載りました。子育てしやすいまちを前面に出したシティーセールスです。
 横浜市では現在、30代から40代の子育て世代が市外流出しています。小児医療費の無料化、保育所や学童保育の整備、少人数学級、中学校給食の未実施など、本市の子育て施策は県内他自治体や東京23区に比べ極端に遅れています。人口20~30万人の区で図書館が1館というのも、東京区部では考えられないことです。これでは子育て世代が横浜から逃げ出すのは当然です。
 また、市長の任期中においても保育料や敬老パスが値上げされ、さらには福祉パスの年間3200円への有料化や、障害者ガイドヘルプ利用基準時間の削減や、ガイドボランティアの奨励金値下げ、社会福祉施設・市民利用施設の有料化や値上げ、市営プールや野外施設の廃止・統合などが進められようとしています。
 これではダメです。少子高齢社会のもと若い市民が増えることは、その将来を保証するものです。市民にとって住みやすいまち、安全安心なまち、子育てしやすいまちをつくるための施策の充実こそが市民要望に応えることになります。

市民生活充実へ財政の「選択と集中」を
 発想の転換の第四は、「選択と集中」についてです。
 2011年度一般会計決算概要によれば、市税収入は3年ぶりに増収になっているものの、依然として厳しい財政状況が続いています。また、公債費や生活保護や高齢社会を支える扶助費など義務的経費が増え、2013年度においても政策的一般財源が縮小し、何を予算上の政策的優先課題にするかが問われています。
 これまで指摘してきたように、本市は、大企業やグローバル企業誘致などによる国際戦略都市づくりによって、世界内外の「都市間競争」に勝つことが横浜経済を活性化させるという考えの下に、「選択と集中」という手法で、厳しい財政下でも大企業やグローバル企業による成長事業・施策に、ほかの予算をかき集めて優先的に予算をつけてきました。この発想を転換し、福祉や教育、防災対策など市民生活を充実させるために予算を「選択と集中」し、優先的に投入することによって、市内の雇用と需要を喚起し、市内経済の持続的な安定した発展を確保する予算編成が求められています。
 このような観点で、予算の振り分け方について具体的にいくつかの例をあげれば、総額2200億円(本市負担分650億円)の横浜環状道路北西線や同南線建設、南本牧MC3・MC4工事を凍結もしくは中止し、特定都市再生緊急整備事業や国際総合戦略特区など不要不急の大型公共事業を総点検することによって、市民生活充実のための予算を捻出することができます。企業立地促進条例に基づく大企業への助成や税負担軽減をやめることも必要です。
 なお、莫大な経費のかかる新市庁舎建設については、これからの横浜の都市としてのあり方について市民的討議を重ね、市民合意を得るまで凍結すべきです。また、市債についても、防災対策事業や今後発生する膨大な公共施設の補修に当てるなど、長期にわたって使用するインフラ整備の財源として大切です。横浜型プライマリーバランスを守り、前年度の元金償還予定額の範囲で、積極的で有効な運用が必要です。
 
明るく活力のある成熟した美しい横浜への転換
 最後に、大都市制度の創設の問題です。横浜市は、アジアなど諸外国が大都市を拠点として著しい発展を遂げており、「我が国も激しいグローバルな競争を勝ち抜いて行かなければならない」として、その「都市間競争」に勝ち抜くためにも地方自治制度を抜本的に改革し、現行の指定都市制度に代わる新たな大都市制度の早期創設を求めています。
 アジアなど諸外国の著しい発展は、世界の産業構造の変化に伴うものであり、大都市制度上の問題が根本原因ではありません。むしろ大都市としての横浜の最大の課題は、住民自治をどのように行うかという問題です。都市が大きすぎるがゆえに、市政が遠く、一人ひとりの住民の声が市政に届かないという弊害を解決することが緊急に求められています。地方自治法を活用して地域自治協議会をつくるなど、市民の声が市政に届く住民自治のシステムづくりに着手すべきです。現在、急いでいる「大都市制度創設」という経済至上主義的で神奈川県との対立など不毛な制度設計をやめ、住民自治の根付いた豊かな横浜を展望する制度が今こそ必要です。
 韓国ソウル市では市内を縦断する高速道路を撤去して元の川を復元し、ドイツやオーストリアではライン川の護岸のコンクリートをはがして土にもどし、美しい自然と生きる都市の自然を回復する努力をしています。みなとみらい21地区やエキサイトよこはま22のように高層建築物の林立する都市づくりは時代遅れです。緑豊かで文化的で活気のあるまち、人々が生き生きと暮らすことのできる成熟した横浜こそ求められています。370万という「人」に着目し、そのパワーが発揮され、その一人ひとりの自己実現が可能なまちづくりです。そのために限られた予算を投入することこそが、市民の目線での「選択と集中」だと考えます。
 
 以上、2013年度予算編成にあたって、日本共産党横浜市議団として考慮すべき問題、課題を述べさせていただきました。2013年度予算編成は市長の今期任期中の最後となるものです。これまでの「しがらみ」にとらわれず、時代の要請に応えた予算編成方針を提示されることを切に要望します。