視察報告
2024年2月5日

【視察報告】子どもに安心できる居場所を 東京世田谷区ほっとスクール「希望丘」を視察

1月12日、日本共産党横浜市議団(5人+政務活動員2人)は、東京都世田谷区にある公設民営のほっとスクール「希望丘」に伺いました。

【視察背景と目的】
文部科学省は、2021年度の不登校児童生徒数が全国で 24万5千人と過去最高となったことを受け、2023年3月に「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策」を発出。横浜市においても、不登校児童生徒数は2022年度に 8,170人と、5年間で約 1.7倍に増加しています。
党市議団は、多種多様な原因で不登校になる子どもたちに寄添う居場所づくり・教育支援は重要課題とし、 全国でも珍しい公設民営のフリースクールの実践を学び、横浜市ではどう課題解決をしていくのか、その方策について展望を得る機会として視察しました。

【視察行程】
① ほっとスクール「希望丘」にて世田谷区教育委員会の担当課長と、施設長から施設概要や方針のレクチャー
② 施設内見学と説明
③ 質問と回答など懇談

【所在地・電話番号】
住所 〒156-0055
東京都世田谷区船橋6丁目25番1号
電話番号 03-6304-6808

【施設の特徴】
ワンフロアに開放的なホール、学習室、相談室、キッチンなどがあり、木のぬくもりを生かす空間が特徴的です。定員は50人で、登録者数は約100人。平均出席数は35人程度。スタッフは常勤7人・非常勤3人+事務局等の体制です。区からの委託です。
通室するにあたって、①本人が希望していること、②保護者が希望していること、③世田谷区在住の小中学生(私立通学でもOK)が条件。保護者負担(利用料)はありません。開室時間は、施設開校日に準じて平日の9時30分から15時。ほっとスクールに出席した日数は、学校の出席日数として扱うよう調整を行います。一週間の時間割は子どもたちとスタッフが話し合って決めています。

 

ほっとスクール外観LINE_ALBUM_2024112 世田谷区フリースクール_240115_10

【レクチャーと質疑応答】
対応:世田谷区教育委員会事務局 教育総合センター教育相談課長 加藤康広氏。
ほっとスクール「希望丘」施設長 今井睦子氏ら4人。
説明:ほっとスクール「希望丘」では、「子どもの居場所づくり」を中心にして、様々な体験活動から自主的な「学び」を獲得していくプロセスを大切にしているとのこと。
ひとりでいたい、みんなと居たいと いう個人の意思を尊重し、まずは安心できる場所になること。しだいに、やりたいことや興味感心が言葉や行動に出てきた時にスタッフがサポート出来るような明るい空間づくり、サークル活動やカリキュラム、話し合いの時間を積極的に設けるなどの工夫を凝らしています。

【主な質疑応答】
Q:校区でないところに小学生が通うというハードルは、施設としてどうされていますか。
A:保護者が基本送りむかえをしてくださっているが、仕事などで出来ないケースもあり、安全確保を相談し合ってこられている児童もいる。家を出るときには「今からいくね」と電話をもらうなど取り決めている。一時間以上の電車・バスを乗り継いでくる児童もいて、行きたい場所があると頑張れるんだなと思いながらも、大変なのは確かです。また、世田谷区にはほっとスクールは3施設だが、不登校の生徒が増え続けている。世田谷区には5つの地域があって、すべての地域に最低でも一つは施設を整備したいと考えている。既存の小規模スクールも移転しながら拡充していきたいと考えている。

Q:一日のカリキュラムの中で、昼食時間と基礎学習がトータル1時間では短くないですか。
A:子どもたちは持参した昼食を15分ぐらいで食べ終えてしまう。学習は基本自宅でも出来ると考え、この時間は主にわからないところなどの質問に対応している。

Q:子どもたちのトラブルや子どもたちが困っていることをどのようにして解決していますか。
A:ここでは、何か困っていることがあったらミーティングに出すことが根付いている。言えない子もいるのでスタッフと一緒に提案することも。子どもたち同士のトラブルなどに対しても、スタッフが子どもたちと一緒に考え、語りかけを行い、その解決策について子どもたち自身で話し合い、解決策としての「ルール作り」を進めている。また、帰りの話の時間で、子どもたちが困っていることや子どもたち同士のトラブルに対して、「各人のストーリーを可視化すること」で、「ルール作り」だけではなく、お互いの意見を聞いて子どもたち自身で解決することを重視している。

Q:子どもたちがワクワクしたり、知的好奇心を持つために、どのようなことをしていますか。
A:職員スタッフは、子どもたちがほっとスクールでの生活体験で発信することを受け止め、子どもたちが何に興味があるかについて考え、きっかけづくりをしている。どう構築するかまた、行動するかも子どもたちに任せてお手伝いしている。菜園、料理、ダンス、服飾等を行うプロジェクトがあり、不定期だが「押し活」と言うよりは、子ども同士で胸をキュンキュンするようなストーリーを創作し、語り合うことを行っている活動もある。

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【横浜市内のフリースクールについて】
「フリースクール」とは、一般的に不登校の子どもに対して「学校外の居場所づくり」になるという目的を掲げ、学習・教育や体験活動などのサポートを行っている民間の施設・団体を言います。

文部科学省は、フリースクールの明確な定義付をしていません。神奈川県でも、横浜市でもされていないとの回答でした。そこで、神奈川県教育委員会では、学校とフリースクール等の連携・協働体制をつくり、学校とフリースクール等との連携を「神奈川県学校・フリースクール等連携協議会」を通じて相互理解を進めているとのこと。「学校神奈川県フリースクール等連携協議会」と連携している横浜市のフリースクールは14団体になります。横浜市教育委員会では、民間団体同士で立ち上げた「横浜子ども支援協議会」とフリースクールに関する情報交換をしているとのことでした。「横浜子ども支援協議会」に参画している横浜市のフリースクールは19団体になります。

進路相談色鉛筆道具だな菜園

左上:卒業後の進路相談ものります

右上:子どもたちが描いた作品が沢山、掲示されていました

左下:画材や粘土、ブロックなどが直ぐに引き出せる棚

右下:シーズン真っ盛りには、野菜が実って収穫します

【視察を終えて(代表)】

大和田あきお議員 健康福祉・医療局常任委員 戸塚区選出

2024112 世田谷区フリースクール

ほっとスクールの取り組みで特徴的な点は、子どもの権利条約における「意見表明権」を重視し、子どもたちを主体とした教育理念が示されていることです。子どもたち自身でお互いの利益や人権について、具体的な事実から相互に主張し議論を行い、合意形成を進める教育が民主的人格の形成に繋がっています。様々な障害のある子も一緒に生活する活動を保障しつつ、一人ひとりの子どもたちに対してそれぞれ個別の発達課題を踏まえた学習支援計画をもとに取り組みが進められています。

どの子も成長し発達する権利を保障し、その子にとって必要な「合理的配慮」を踏まえた「インクルーシブ教育」に基づく学校教育をすすめる改革の重要性を示しています。ほっとスクール「希望丘」の視察を通じて、「学校とはどのようなことをして、どのような価値を実現する場所なのか」、また「学校が本来達成すべき内容や価値はなにか」ということが問われていると思います。

いま、この取り組みで強く求められていることは、学校復帰のためのシステムではなく、社会的自立を目的とした新たな「オールタナティブな(新たなもう一つの)学び」や「居場所」のある学校を実現していくことです。

※「インクルーシブ教育システム(inclusive education system)」とは、「障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)」によれば、「人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な合理的配慮が提供される等が必要とされている。」(文科省「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」 2012年7月)

また、「インクルーシブ教育は、教育システムやその他の学習環境を、学習者の多様性に対応するために、いかに変えるかを追求するアプローチです。すべての学習者に質の高い教育への参加を保障し、『社会への完全かつ効果的な参加(障害者権利条約)』の実現をめざすのがインクルーシブ教育であるとも言えます。」(荒川智 茨城大学名誉教授、教育学博士、日本学術振興会特別研究員)

【ほっとスクール「希望丘」事業の経緯・運営方針】

※世田谷区教育委員会資料より

〇経緯

世田谷区では、1995年度より、不登校の児童・生徒が安心して過ごすことができる 「心の居場所」として「ほっとスクール(教育支援センター)」の事業を開始し、区内で2か所のほっとスクールを運営し支援に取り組んできた。 その後、特に2012年度以降、区内における不登校の児童・生徒数は増加傾向にあり、ほっとスクールでの定員超過などが課題となっていたことから3か所目となるほっとスクールを開設することとし、区立中学校の統廃合に伴う跡地を活用し整備する複合 施設内にほっとスクール「希望丘」として2019年2月に開設した。また、その間、国の「基本指針」(2017年3月)が示されたため、その趣旨を踏まえ不登校児童・生徒への支援の場のさらなる充実を図る観点から、運営業務を民間団体等へ委託することとした。

〇ほっとスクール「希望丘」の運営方針

ほっとスクール「希望丘」は、既存のほっとスクールと同様に不登校児童・生徒の 「心の居場所」として安心して過ごすことができ、日々の友人らとの関わりや集団活動を通して、社会性や協調性を育むことを確保しつつ、教育機会確保法に基づく「基本指針」を踏まえ、不登校児童・生徒の社会的自立支援のため、次の新たな取組みを展開する。① 基礎的な学力の定着を図るため、指導体制を整えるとともに、全ての教科に対応 した内容が提供できるICT機器を活用するなど効果的な学習支援を行う。② 社会参加に向けて新たな一歩を踏み出すため、自分の適正を発見し、自己表現する力や社会性を身につけるための取組み、魅力的な体験プログラム等を、開発・実施する。運営方針は、① 社会的自立の支援として、効果的な学習支援や多様な体験活動がより充実される ことが必要とされており、民間のノウハウや人的ネットワークを最大限活用してそれらを実施する。② 既存のほっとスクールとの合同行事等を定期的に行い、ノウハウの共有化を図る。③ 複合施設内に併設される「青少年交流センター」等と連携した取組みを進める。

【運営手法等】

事業者の選定方法:公募型プロポーザル方式(民間委託)

委託内容は、① ほっとスクールの運営業務学習指導・参加型体験活動の実施、進路指導・教育相談の実施 ② 施設管理業務 日常点検、安全・衛生管理、避難所の運営支援 ③ その他業務の実施区の不登校対策事業への協力、関係機関との連携。

【運営】

〇運営概要

① 開室時間 平日月曜日から金曜日の午前9時半から午後3時半(区立小中学校の開校日に準じて、祝日、夏季・冬季・春季の学校休業期間は閉室とする。) ② 対象者 世田谷区在住の小・中学校児童、生徒 ③ 入室の決定教育委員会、ほっとスクール職員、在籍校の校長又は副校長、及び担任により構 成される入室検討委員会にて入室を決定する。 ※いずれも、既存のほっとスクールと同様に事業運営要綱に基づき行う。

〇運営体制

運営体制は7名程度とし、以下の職員を配置させる。① 業務責任者は業務全体を統括し、区及び関係機関との連絡・調整等のコーディネートを行う。 ② 学習指導担当は小学校又は、中学校の普通教員免許状の取得者で、通室生の学習計画及び指導の中心となるもの。③ 相談業務担当大学又は大学院において、心理学領域を主として専攻、卒業又は修了し、通室生 及びその保護者に対して相談、支援方策等の検討の中心となるもの。 そのほか、地域サポーター、学生ボランティアを活用し通室生の支援を行う。

【経費(概算)】

2018年度 約20,900千円(開設準備費、運営費2ヶ月分)

2019年度以降 約32,000千円(年間運営経費)

【今後の取り組み】

ほっとスクール「希望丘」今後の取組みの方向性と不登校対策 ほっとスクール「希望丘」の取組みで得たノウハウ等については、令和3年度開設の「世田谷区教育総合センター」の教育相談・不登校対策機能において、ほっとスクール 事業全体の充実に活かす。 また、民間との協働のあり方についても令和3年度以降検証を行う。なお、ほっとスクール「希望丘」の開設により、不登校児童・生徒の支援のための場 の定員を倍増させることができるが、不登校児童・生徒が600人を超えている現状を 踏まえ、学校内外の支援、家庭・保護者の支援等の具体的な対策の充実に向けた検討を別途進める。


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